2025.03.13
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思い

セカンドキャリアについて
アスリートのセカンドキャリアについて、前回のブログの続きを書いていきます。
この記事から読む人に向けて、僕のざっくりした経歴だけ再掲しておきます。
(詳しくはこちらのブログで)
・小学3年生からバスケを始めるも、学生時代は全国大会未経験の無名選手
・大学3年時、就活を途中で辞めてプロを目指す
・大学卒業後、アルバイトをしながらクラブチームに所属して全国のプロチームのトライアウトを受ける
・3年目に練習生としてプロチームに入団が決まり、その年の途中にプロ契約を獲得
・プロチームで8年間、実業団チームで1年間プレイ後、2022年に引退
・ビジネスパソコン教室、コピーライター養成講座に半年間通いコピーライターを目指す
・2023年2月、35歳未経験でコピーライターに転職して今に至る
「社会人未経験の35歳」という現実
引退後、最も感じたのは「世間の厳しさ」でした。現役中は、セカンドキャリアについて「なんとかなるだろう」と楽観視していましたが、想像以上に厳しかったです。特に僕はバスケ以外の仕事に就こうと決めていたので、未経験の分野で新たなキャリアを築くことの難しさを痛感しました。
企業側から考えてみれば当然ですよね。35歳といえば転職市場ではキャリア採用、つまり経験者しか求められていません。それも、年齢的にはその仕事を数年続けている「スキルや経験」が求められているのです。
そこに、その仕事におけるスキルや経験が何もない、それどころかPCも触ったことがない35歳がやってきても、ほとんどの場合相手にされません。興味は持ってくれるが、採用までは至らない、とか。もちろん、アスリートとしての経験や人柄を見て採用してくれる企業もあるかもしれませんが。いずれにせよ厳しい現実が待っています。
そこで僕は、最低限のスタートラインに立つために、ビジネスパソコン講座に通い、Excel、PowerPoint、WordのMOSを取得しました。それと並行してコピーライター養成講座に通い、転職のための準備をしました。そして通学中に未経験でコピーライターとして今の会社に就職することができました。これについては、はっきり言って運の要素も大きかったと思います。
現実は厳しかったですが、あのとき半年間悩みに悩んで苦労しておいてよかったと思います。みんなと同じ道を選べば、短期的には(金銭的にも社会的にも)楽だったかもしれませんが、長期的にみればいつかキャリアに悩むだろうなと感じていました。
(人と違うことをして)いま苦労して後で楽をするか、(人と同じことをして)いま楽をして後で苦労するか。これは就職活動の時にも同じことを感じました。当時は就職活動を辞めてプロを目指す道を選びましたね。いずれにせよ自分が納得できる道を選んでほしいと思います。
現役中に引退後の準備をした方がいいか
セカンドキャリアについて語る時に、よく言われることとして「現役中に引退後の準備をしておいた方がいい」というものがあります。これは、個人的には相当に難しいことだと思いました。何を隠そう、僕自身も現役中に引退後のことは考えていませんでしたからね。いくつか理由を考えてみます。
・やりたいことがわからない
・いつ引退するかわからない
・5年後には自分の興味も世の中が変わっている
・人は「重要だが緊急ではない課題」に取り組むのが極めて苦手
といったところでしょうか。
「やりたいことがわからない」問題
これには2つの問題があると思います。1つは文字通り「やりたいことがわからない」こと。これは今までその競技しかやってこなかったアスリートは、多かれ少なかれみんな直面する問題だと思います。これに対する僕の答えは、「とにかく競技以外のことをやってみよう」です。
例えば、小学生に好きな食べ物を聞いて「たこわさ」と答える人はいないですよね。それは「たこわさ」を食べたことがないからです。経験したことがないことは選択肢にすら入りません。「やりたいことがない」のは「やったことがないから」。競技以外のことを経験してみる。うまくいくかわからないけど、とにかくやってみる。そうしないと何がやりたいかなんてわかりません。
「やりたいこと」を求めない
「やりたいことがわからない」の2つ目の問題は、そもそも「やりたいこと」を探してしまっていることです。プロのアスリートは、小さい頃から好きでやっていたスポーツを職業にした人たちです。なので引退後も当然のように「やりたいこと」を探しますが、スポーツのように熱中できる「やりたいこと」なんてそうそうないのが現実です。
つまり、「やりたいこと」ではなくて、「好きなこと、できること」を探した方がいいと思うのです。もっと言うと「ついついやってしまうこと」や、「自分は大変だと思っていないけど、人にやたら褒められること」とかの方が仕事を選ぶ上で重要な気がします。引退後の仕事を「長く続ける」という意味でも、こっちを基準にした方がよさそうです。
それが、僕にとっては本を読むこと、文章を書くことや、考えること。つまり「言葉」に関することでした。コピーライターを目指した理由のひとつです。
逆からのアプローチも有効だと思います。「どんなに頑張っても自分にはできないこと」や「みんな簡単そうにやってるけど、自分は苦痛で仕方がないこと」を選択肢から外す。
人にはそれぞれ個性があります。努力で変えられるものもあるけど、持って生まれた性質みたいなものは変えられない部分も大きいです。自分の性質は変えられないものとしていい感じに諦めて、自分が自分のままで重宝される場所、自分の性質が長所として評価される場所を選ぶのも大事だと思います。
年功序列が強い組織で仕事がしたいのか、仲良く和気あいあいとした雰囲気で仕事をしたいのか、実力主義で厳しく仕事をしたいのか。どの組織がいい悪いではなく、それぞれ求められる能力やフィットする性格が異なります。
自分自身と向き合って、まずは自分の性格を知ること。そして好きなこと、できることから仕事を考えて、どういう組織で働きたいかまで考え抜くことが大事なんじゃないかと思います。
引退のタイミング
いつ引退するかは当たり前ですが人それぞれです。1年でも長くやりたいという選手も、全盛期にスパッと引退する選手もいます。僕はすべての選手をリスペクトしています。その人の心は当の本人にしかわからないですからね。理解しようとしてもできるものじゃありません。僕たちが見ることができるのは、ほんの一部分で、その人の全ての行動、全ての気持ちを知っているのは、本人だけです。本人以外にわかりようがないのです。
引退のタイミングは本当に難しい。だんだんプレイタイムが減って活躍できなくなっても、「こんなところじゃ終われない」「俺はまだもっとできる」と思うはずです。反対に、年齢を重ねてもバリバリ試合に出ていたら、当然「まだまだできる」と思います。
このように、どんな状況でも、アスリートはいつでも「まだできる」と思う生き物なのです。なので、自分で「終わりにしょう」とその時を決断するしかありません。もちろん、「オファーがない」というのはひとつの判断基準になると思います。やりたくてもできないわけですからね。それでもわずかなチャンスを求めて競技を続ける人も少なくありません。
元も子もないですが、引退のタイミングに関しては僕からアドバイスできることはありません。先ほど言った通り、本人にしかわからないことですからね。自分が納得するまで頑張ってほしいと思います。
いつ引退するかわからない以上、引退後の準備を現役中にするのは難しい。ただ、引退後のアスリートにとって、「世間は想像以上に厳しい」ということだけは知っておいてもらえたらと思います。
コロコロ変わる自分を楽しむ
「5年後には自分の興味も変わっている」これは僕が飽きっぽいからなのか、興味のあることが日によって変わったりします。引退後のことはおろか、半年後に何に興味を持っているのかすらわかりません。
引退後に向けてできることといえば、その時々に興味のあることを調べる、勉強する、人に会う、くらいですかね。それが仕事につながるとは限らないと割り切って。
将来に対する不安はありましたが、引退後自分がどんなことをしてるんだろう、という期待もありました。昔から「先が見えること」に対しては安心よりも不安が大きく、「先が見えないこと」に楽しさを感じるタイプでした。
結果がわかりきっているものにはあまりワクワクせず、結果がわからないものにワクワクしていましたね。スポーツなんかまさにそうで、人生に対してもどこかそういう感覚があったのかもしれません。ゴールではなく道中を楽しむ。
予測不能な未来を受け入れる
5年前を思い返してみると、当時は当たり前だったことが、今では全く違う形になっていることも多いです。
リモートワークが浸透したことにより、住む場所が前より自由になった。これは5年前には全く予想ができなかったことの1つだと思います。AIの進化もめまぐるしく、この先どんな仕事が盛り上がるかなんて誰も予想ができません。つまり、「今ある選択肢」だけを前提に考えるのは無理がある。ということです。配信やゲームが仕事になるなんて数年前は想像すらできませんでした。
スティーブ・ジョブズの有名なスピーチにあるように、「connecting dots」将来のことを考えて行動するより、とにかく今興味のあることをやって、あとから点と点をつなぐことしかできないように思います。
予測できない変化が起きるからこそ、その中に新たなチャンスも隠れていたりします。自分の変化も、世の中の変化も、そういうものだと割り切って、予測不能な出来事を自然のものとして受け入れる。さらにその変化を楽しむことで、思いがけない機会が見つけられるのかもしれません。
セカンドキャリアが難しい最大の理由
長くなってしまいましたが、最後です。人は、「重要だが緊急ではない課題」に取り組むのが極めて苦手、という話です。取り組むべき課題を「重要」と「緊急」という2つの尺度で、その度合いによって4象限に分けて、アスリートに当てはめてみます。
左上に当たるのが「重要だが緊急ではない」課題。アスリートにとってその代表がセカンドキャリアです。
英会話に置き換えてみましょう。今の時代、英語を話せた方がいいのは明らかです。でも現在の仕事に直接関係がなければ、なかなか英会話に通い続けるのは難しいですよね。まさに、重要だが緊急ではない課題です。これに取り組むのは、意思の力はあまり関係なく、とても難しいと僕は思います。
じゃあどうしたらいいか。解決方法のひとつは、重要かつ緊急な課題に移動させてしまうことです。留学すると早く英語が話せるようになるのは、これですね。英語を話せないと生活できない環境に身を置くから話せるようになる、という考え方です。ダイエットがほぼ成功しない理由も、これで説明できます。ダイエットしなくても生活に決定的な支障がないからです。
セカンドキャリア問題がどうしようもなく難しいのは、セカンドキャリア問題を「重要だが緊急ではない→重要かつ緊急」に絶対に移動できない点にあります。なぜなら、緊急になる時は、引退する時だからです。
このブログの冒頭で、僕が「現役中に引退後の準備をした方がいいか」という問題に、「相当に難しいと思う」と答えた最大の理由がここにあります。実際に引退してみない限りは、緊急に取り組むべき課題にならないからです。
ふわっとしたアドバイスになってしまいますが、セカンドキャリアについてはこういうものだと割り切って、引退後に、時間をとって自分と向き合うのがいいんじゃないかと思います。もちろん、現役中に準備できる人は素晴らしいです!
僕はやろうと思っても実際に引退するまでできなかったので、自分を棚に上げて偉そうなアドバイスをすることはやめておきます。
まとめ
以上、長くなってしまいましたが、僕からできるアドバイスをまとめると、
・現役中に引退後の準備をするのは難しい
・今興味あることをやっておいて、点と点をあとからつなぐ
・時間をかけて自分を知る
・「やりたいこと」を探さない
・まずは競技以外のことを「やってみる」
・「好きなこと、できること」を過去の自分から紐解く
・自分の性質が重宝される場所を選ぶ
・自分の変化も、世の中の変化も楽しむ
あたりですかね。これをやっておけばセカンドキャリアも安心!みたいなことが1つもなくて恐縮ですが、これが僕が感じたリアルです。何かひとつでも誰かの参考になれば嬉しいです。現役中に、自分から情報を取りに行く、という姿勢は大事かもしれません。
人生100年時代といわれる今や、セカンドキャリアはアスリートだけの問題ではありませんからね。途中で道を変えたり、立ち止まったりするのも、全然ありだと思います。
以上、まだまだ勉強中の身ですが、アスリートのセカンドキャリアについて現時点での想いを書いてみました。コツコツブログを更新していきますので、引き続きよろしくお願いします!