2024.07.11
広報Blog
思い
人はそれぞれの環世界を生きている
最近、友達のスマホでYouTubeを一緒に見ようとしたら、自分のYouTubeとは全く違う動画が並んでいて驚きました。当たり前といえば当たり前ですが、普段見ている動画が違うのでオススメされる動画も全く違うんですね。同じアプリのはずなのに、違う世界に飛び込んだような気持ちになりました。
今回は、そんなふとした出来事から考えたことについて書いていこうと思います。
わたしの世界、あなたの世界
突然ですが、「環世界」という概念をご存知でしょうか。環世界とは、ドイツの生物学者ユクスキュルが提唱した概念で、「生物それぞれが知覚する独自の世界」のことです。
生物ごとの異なる感覚と認識の仕組みにより、同じ物理的な環境でも異なる世界を体験している。という考え方。
例えば、木の上などに生息するマダニは、視覚や聴覚がありません。代わりに嗅覚、触覚、そして温度を感じる能力を備えています。下を通りかかる哺乳類から発する酪酸の匂いを感知し、さらに体温を感じ取ることで動物の位置を察知して、彼らの上に落ちます。そして触覚によって毛がない部分へと進み、吸血行為に及びます。
このようにマダニにとって世界とは、匂いと温度と触覚だけでできているのです。自分にとって意味がないものは、知覚さえしない。
ここで冒頭のYouTubeの話に戻ります。この「環世界」という概念を拡大解釈してみると、(人間を生物としてみれば皆同じですが)人間もひとりひとり違う環世界を生きていると言えるのではないでしょうか。今あなたが見ているSNSの情報は、すぐ隣の人と驚くほど異なります。
そう考えると、先ほどの説明もまた違った意味に聞こえてきそうです。環世界の説明について、生物を人間に置きかえてもう1度見てみましょう。
「ひとりひとりの異なる感覚と認識の仕組みにより、同じ世界を生きていても異なる世界を体験している。」
「自分にとって意味がないものは、知覚さえしない。」
スマホが環世界化を加速させる
インターネットやスマホが普及して、日々膨大な量の情報が何もせずとも流れてくるようになりました。新聞やテレビではなく、スマホやSNSを通じて情報を取得することがほとんどの人も多いのではないでしょうか。僕もテレビはスポーツの生中継くらいしか見なくなりました。
SNSでは自分に近い意見だけが流れてきます。気になる投稿を1度開くとすぐに似た投稿ばかりで埋め尽くされる。アルゴリズムにより、興味がある(とされている)動画が次々におすすめされる。
このような現象は「エコーチェンバー」とか呼ばれてたりしますね。自分と同じ意見があらゆる方向から返ってくる「反響室(エコー)」のような狭いコミュニティで、同じような意見を見聞きし続けることによって、自分の意見が増幅・強化されてしまう、と。
他には、「フィルターバブル」と呼ばれるものもそうですね。ユーザーの好みを学習したアルゴリズムによって、そのユーザーが好む情報ばかりが表示される。僕たちは毎日「各々の」関心のあること・信じたいものに触れていて、情報のフィルターが強化されている。ある意味でとても偏った情報を受け取っています。
多様性の時代と言われて久しいですが、スマホの普及により、多様性どころかむしろ非常に狭い閉じた独自性の方向に向かっていると感じてしまいます。
もはやこの流れは止められないし、責めるつもりもありません。ただ、僕が日々見つめているスマホから流れてくる情報は、僕だけにしか見えていない閉じた「情報環世界」だということにはせめて自覚的でありたい。
そして、スマホの外にも世界があること、自分とは違う環世界があることを忘れずにいたいと思います。それが本当の意味での多様性や、違いを受け入れることにつながっていくのではないでしょうか。
みんな違って、みんないい。
知らない世界を知る楽しさ
i:stではブランディングや食品のパッケージ、パンフレットやポスター制作など、いろんな業界のいろんな案件を扱っているので、その度に新しい世界を知ることができます。
仕事をいただいた案件については、リサーチしたり実際に体験したりすることも多いので、この仕事をするようになってから興味の幅がだいぶ広がりました。
チョコのパッケージ制作の依頼がきたら、競合商品含め実際にチョコを食べてみる。そんな調子である時はアイスを食べて、ある時はワインを飲んで、ある時は芝居を観に行く。調味料を自分で買って料理する。そんな風にして仕事に関係することを体験していく中で、強制的に世界が広がっている感覚があります。
バスケ選手からコピーライターになり、全く違う業界を生きてみて実感します。新しいことを知ることで、今まで気にもとめていなかったものが急に輝いて見える。世界は変わっていないのに、世の中が全く違って見える。知らない世界を知ることは、楽しい。
アルゴリズムの外に出る
最後に、仕事以外での環世界の広げ方の例を紹介して終わりにしたいと思います。
端的にいうと、普段と違うことをする、不確実性に身をまかせる。ということです。これまで見てきたように、人はそれぞれの感覚によって知覚した独自の環世界を持っています。つまり、自分の環世界を広げるためには、普段は知覚していない自分以外の環世界を知ることが重要なのではないでしょうか。
いくつか例を挙げてみます。本屋にふらっと立ち寄って普段は絶対読まないような本を買ってみる。SNSで自分とは真逆の考えの人や、わけのわからない人をフォローしてみる。流行りにあえて乗ってみる。新しい環境に飛びこんでみる。などなど。
労力が小さいものから大きいものまで、何でもいいからとにかく普段と違うことをしてみる。そうすることで自分とは違う環世界を知覚し、体験する。世の中には自分の感覚とは違ういろんな人がいると気づくし、いろんな視点で物事を考えられるようになると思います。さらに自分の新たな一面が見えてきたりして、やがて自分が広がる。
旅やライブ、スポーツなんかもいいですよね。その時しか体験できない「場」を楽しむ。次に何が起こるかわからない不確実性に身をゆだねる。予測されたアルゴリズムにはない、予想外の思わぬことに出くわすかもしれないけど、それすら楽しんでしまいましょう。
最高の「楽しい」は、必ず「わからない」を含む。
これからもいろんなことを楽しみながら、時には自分の世界からはみだしていこうと思います。